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GPBB外伝 BEAST BATTLER`S Chapter.1 第三話:”真相”、身に染みても

Chapter.1 吹き寄せる風

第三話 ”真相”、身に沁みても

ホールへ入場した途端、浴びせられた歓声にシンは気圧されそうになった。
歓声の中には野次が混じり、シンのことを煽るような内容も聞こえてくる。
小規模の大会―――普通の模型店が開くような―――大会は出たことあるが、ここまでの人数がいる大会は初めてだった。
故に、シンは緊張していた。

――――誘ったのは、俺だもんな。

ここに一緒に行こうと言ったのも自分。ここに来てその大会に出ようと言ったのも自分。
シンは心の中で気合を入れたつもりで、ホール中心部のバトルスペースにへと向かった。
だんだんとバトルスペースが見えてくる。丸いエリアに区切られた場所の傍にボックスが設置してあった。

「これがボックスか」

バトルスペースに到着し、シンは左に設置してあるボックスを見た。
ボックスを開け、先程の説明の通りにジム・フルバーニアンのガンプラを入れる。
パタンとボックスを閉じた瞬間、機械音がボックスの中から聞こえ始めた。

――――何やってんだ?

そう思いながらも、シンは前方の方を向いた。
目の前にる巨大な機械。それを挟んで向こう側に、自分の相手選手の姿があった。
一言でいえば”不良っぽい”、そんな印象の男だった。
目線に気が付いたのか、相手選手がシンの方を向き、互いに目があった。

「!」

ふん、と鼻で笑い、相手選手はハロから自分のガンプラを取り出し、ボックスにへと体を向けた。
なんだ舐めやがって。ちょっと緊張してるけどやってやる。
そう思うシンの体は、その緊張で少しだけ熱くなっていた。

「よし、やるぞ」

試合の準備が出来たシンが、ハロを上へと掲げる。
だがその直後、会場の観客席がざわざわとしはじめ、次第に失笑が聞こえ始めた。

「え…え?」

その反応に、シンは戸惑った。
シンが行ったこの行為は、ガンプラバトルにおいてバトル開始の準備が整ったということを示す合図である。
今からガンプラバトルをするのに、何故これが笑われるのか。
シンはすばやく理解できず、混乱した。

《Bサイドの少年!ここは初めてか!?力を抜こーゥ!》

困惑するシンに呼び掛ける実況の声が会場内に響く。
同時に笑い出す観客もいた。

「…あっ!」

シンは、先ほど黒服の男が言っていたルールを思い出す。
バトルスペースにセッティング――――。
その言う通り、シンは自らの正面を確認すると、球状の接続部を見つけた。
大きさ的にハロがちょうどよくハマリそうなその接続部に、シンは自らのハロを載せた。
途端、ハロの目が光りガンプラバトルの際のモードへと移行する。

《そう!そこに!セットだ!!うまくいったな、ハハハ!》

再び観客席からの笑い声が浴びせられる。
シンは自分の体の熱さがだんだんと増していくのを感じた。
恥ずかしい、緊張、その二つの感覚が、シンの中で渦巻いている。

「…ええいっ!」

それらを退ける、そして気合を入れるためにシンは頬をパチっと叩いた。
そうしていると、ホール真ん中の機械から機械の駆動音のようなものが聞こえ始めた。
よく見ればその機械は、巨大なハロが上を向いているようであった。
そのハロの口が開かれ、そこからレーザーのような光線がバトルスペースの周囲にへと放たれた。

「すごいな…」

いくつかガンプラバトルの大会を見てきたシンだったが、ここまで大がかり、そしていってしまえば豪華な仕掛けは初めてだった。
レーザーがシンと相手選手の周囲にホログラムを形成していく。
同じくして、シンの両手に球体の操縦桿、そしてシンの周囲に機体の情報を映すウインドウが浮かび上がった。

「ここからはいつも通りだ」

が、そのいつも通りの表示に一つだけウインドウが増えていた。
そこに映されていたのは、ジム・フルバーニアンのガンプラだった。

『物理破壊確認』

そうウインドウに書いてあった。

「物理破壊…?」

ジム・フルバーニアンを囲む先の細いアーム。先程の機械音はおそらくこのアームが動く音だったんだろう。
これはなんだろう、と少しだけ不安を浮かべていたシンを余所に、いつの間にかホログラムはバトルフィールドの形成を終えていた。
巨大ハロを中心として、ホールの中心部全てがホログラムに包まれている。
シンの正面に今回のバトルフィールドの情報が表示される。フィールドは地上、木々が広がる森林地帯だ。

「地上か、でもこのフルバーニアンはな…」

シンが操縦桿を握り、機体の動作を指示する。
ガンプラバトルは、いつもお決まりの言葉で始まる。

《BATTLE START!!》

実況の音声と同時に、フィールド情報のウインドウが消え、シンの正面にその文字が表示される。
そして、周囲の光景がモビルスーツが置かれているデッキのような場所になった。
ジム・フルバーニアンはカタパルトに乗っている。今すぐにでも出撃は可能だ。

――――”下”でも飛べるんだ!

そうシンは、さっきの呟きからつづけた。

「モギ・シン、ジム・フルバーニアン!出るぞ!」

その掛け声と同時に、カタパルトをジム・フルバーニアンが滑っていく。
ある一定の距離に到達すると、ジム・フルバーニアンがバーニアを吹かせカタパルトから飛び立った。
カタパルトの出口が消え、森林地帯の上に広がる空にはジム・フルバーニアンの姿しかなくなった。

「推力安定、よし」

バーニアリミットの表示を確認し、シンはとりあえず安心した。
ジム・フルバーニアンの元機体とも言える「ガンダムGP01fb フルバーニアン」は大破したガンダムGP01を宇宙用に回収・適応させた機体だ。
本来なら地上ではあまり向かない機体ではあるが、シンの場合、機体性能設定の際に大気圏内と圏外どちらにも対応できるような推力にした。
元機体のモノよりスペックは下がっているが、ガンプラバトル自体ほとんどがランダムステージなので、それに適応しなければならなかった。
多少の性能低下は、そのための代償なのである。

「敵は何処だ…?」

シンがセンサーウインドウを確認し、敵の位置を調べようとする。
下には大きな川が一本通る森林が広がっている。森林といっても、木々のサイズは機体のサイズに合わせてあった。
その木々らに紛れているのか、敵機の姿は中々見えない。
そうして数十秒が経過した、その時だった。

《シン!左斜メ下!注意!》

シンのハロ・イチローの電子音が鳴り響く。
ガンプラバトルの索敵系統の支援をするのも、ハロの一つの役目である。
シンがイチローの言う方向を確認しようとした寸前、カツン、とジム・フルバーニアンのシールドに何かが当たった音がした。

「なんだ!?」

見ると、左腕に装着されたシールドにアンカーのようなものが食い込んでいた。
アンカーからはワイヤーが伸びており、姿は見えないが、ソレは森林の中から発射されていた。
瞬間、ジム・フルバーニアンはワイヤーによって地上の方向にへと引っ張られた。

「うわあぁっ!」

ジム・フルバーニアンがバランスを崩す。
その直後、ワイヤーを引っ張りながら、森の中から白色の機体が姿を現した。

《オリャサアアッ!!!》

謎の声を上げ白色の機体――――グフ・カスタムが、シールドにガトリングが取り付けられたガトリングシールドを打ちながらジム・フルバーニアンへと近づく。
弾丸がジム・フルバーニアンにへと命中し、小さな損傷を機体につけた。

「勿体ないけど…!」

シンはジム・フルバーニアンのシールドをパージし、バーニアを噴かしてその場を脱出した。
だが、相手選手はそれでもジム・フルバーニアンをあきらめなかった。

《逃げるのかよ、オイッ!》

グフ・カスタムが捨てられたシールドからアンカーを離し、一度ワイヤーを右腕に収納する。
間髪入れず、バーニアを噴かし落下速度を減速しながら、アンカーをもう一度射出し、ジム・フルバーニアンを狙った。
だが、アンカーはジム・フルバーニアンに届かず、空回りをする。

「距離をとればこっちのもんさ!」

シンは落下するグフ・カスタムに狙いを付け、ジム・フルバーニアンのビームライフルを発射させた。
ピンク色のビームがグフ・カスタムにへと伸びていく。機体を動かし、なんとか回避しようとしたグフ・カスタムだったが、それまでだった。

《ぐっ!》

相手選手は命中の寸前で機体を捻らせ、間一髪ビームの直撃から逃れる。
しかし、ビームは右肩をかすれ、スパイクの部分を焼いた。

「惜しい!」

そのままビームライフルを数発発射するが、グフ・カスタムは森へと着地し、その姿は見えなくなった。
着地した周辺にビームが着弾したが手ごたえはない。ということは、また直撃からは逃れたということだった。

「どこ行った…!」
《シン!》

シンがグフ・カスタムを探していると、イチローがシンの名を呼んだ。

《モウスグバーニアノリミットガ切レルゾ!》
「あれ、もうか?」

機体の機動を促すバーニアは、無限に使えるというわけではない。
自らのハロにガンプラの機体を登録する際に性能設定の欄が存在する。その内容の中にバーニアのゲージ量の項目が存在した。
機体の重量などでその項目は自動的に変わるのだが、他の性能を犠牲にすることによって、バーニアのゲージ量などを自分で増やすことができる。
ジム・フルバーニアンの場合、全体的な性能は並だが、機動性はバーニアを含め少し上昇させていた。
通常の機体より余裕のあるような設定だが、今の場合、グフ・カスタムの攻撃からの回避、そして一度も地面に着地していないことから、バーニアのゲージ量を回復する、あるいは節約する暇がなかった。
機体状態のバーニアゲージを見ると、確かにイチローの言う通りあと少しでバーニアのゲージが切れそうになっていた。
この状態で地上に降りるのは危険だが、一度地面に足を付けてバーニアのゲージを回復する必要がある。

「…距離はとったはず、だけど」

こちらの着地位置を予測して、襲ってくるかもしれない。
シンはグフ・カスタムが落ちた場所の方向にビームライフルを向けながら、残りのバーニアを使い森の中にへと入る。
サイズに合わせられた、とはいえステージの木々の大きさは人間と樹との関係のそれであった。
通常ならこういったものはミニチュアサイズ―――それこそガンプラでありがちな1/144サイズだったり―――なのだが、このステージは違っていた。
方向感覚を見失えば、深い森の中で遭難しているのと同義…。

「イッチ、ゲージの回復は?」
《アト4秒!》

周囲に注意しながら、シンはバーニアの回復を待つ。
ゲージが完全に回復し、バーニアが使えるようになるまであと数秒―――。

《ッハアアア!!》
「ッ!?」

だが、ゲージが満タンになったその瞬間だった。
シンがライフルを向けていたのと真逆の方向から、グフ・カスタムが飛び込んできた。
グフ・カスタムがヒートサーベルを振り上げ、ジム・フルバーニアンにへと切りかかる。

「イッチ!?敵機の反応は…!」
《反応…ナカッタゾ!?》
「…!?」

イチローのその返答が、シンは一瞬わからなかった。
反応がなかった。イチローが反応しなかったということは、イチロー自身に何かしら不備があったか、センサーに敵機が映っていなかったかである。
黒服にハロを弄られていた際、ヨーイチのリイナはなんとなく調子がおかしかったが、イチローには今のところ目立った不備は見られない。
それを踏まえて言うなら、グフ・カスタム自身が”センサーに映っていなかった”ということになる…。

「クソッ!」

しかし、目の前にグフ・カスタムがいる以上そういうことを思っている暇はなかった。
斬撃をを防ごうと左腕を上げてしまったシンだったが、ジム・フルバーニアンの左腕にはもうシールドはない。
グフ・カスタムの斬撃によって、ジム・フルバーニアンの左腕は焼き切られてしまった。

「しまった……!?」

うっかりしていた、とシンは思った。
何か焦っているのかもしれない、こんなミスは普段滅多にしない。
シンがもう一度攻撃を仕掛けてくるであろうグフ・カスタムへの対応を考えようとしたが、そこであるウインドウに目が留まった。
あの「物理破壊確認」のウインドウだった。

「何?」

何本もの小型アームによって掴まれたジム・フルバーニアンのガンプラ。
それを囲むようにあるもう数本のアームが、ジム・フルバーニアンの左腕にへと伸びた。
アームの先端に光が帯びていく。

「…えっ!?」

シンはジム・フルバーニアンにされているソレのことを、すぐには理解できなかった。
アームから放たれた光―――レーザーが、ジム・フルバーニアンの左腕の関節を狙った。
丁度そこは、先程グフ・カスタムに切られた場所だった。
レーザーによって関節が融解し、ジム・フルバーニアンの左腕がぽろりと落ちる。

「何で…どうして!?」

シンは操縦桿から手を離し、ジム・フルバーニアンが入ったボックスを開けようとする。

「アッ、熱!?」

しかし、ボックス自体はまるで鉄板のように熱くなっており、シンは思わずすぐにボックスから手を離してしまった。
これではフルバーニアンは取り出せない。

《バトルに向かえよ、ガキィ!》

相手がこちらに呼びかける声が聞こえ、シンはバトルの方に気をやった。
しかし、ジム・フルバーニアンはシンが操作していなかったために、数秒止まったままだった。
それを逃さなかったグフ・カスタムは、再びジム・フルバーニアンの右肩に斬撃を喰らわせ、そのまま斬り抜けた。

「うっ…!」

そしてそれに合わせるかのように、アームがフルバーニアンの右肩にへと伸びていく様子が、ウインドウに映し出された。
今度はアーム自体が右肩に”損傷跡”を付けた。シンはバトル中であっても、その様子が気になって仕方なかった。
いや、この際バトルなんていい。何故、俺のガンプラが壊されなければならないんだ。

《…へっ!思った通りだな!》

ジム・フルバーニアンを一点に留まらせ、ヒートサーベルによって斬撃を喰らわせ、斬り抜ける。また方向を変え、フルバーニアンにへと向かい斬り抜ける。
グフ・カスタムはそれを繰り返し、フルバーニアンの機体に次々と損傷を付けていった。

《雑魚はな!》

攻撃の隙をぬって脱出するために、ポッドのバーニアを吹かそうとするフルバーニアン。
しかしグフ・カスタムはそれを逃さず、背部のブースターポッドを狙って斬撃をかけた。
二つのブースターが斬られ、直後爆発する。
その爆発の衝撃によって、ジム・フルバーニアンは前のめりの状態となった。

《お調子こいてこんなところにィ!》

さらにグフ・カスタムは、ジム・フルバーニアンの頭部を蹴り飛ばした。
胸部から頭が取れ、フルバーニアンの首が舞う。その頭のバイザーは、蹴りの衝撃によって割れてしまっていた。

《来るからこうなるんだよォォッ!!》

グフ・カスタムがヒートサーベルを突き刺したと同時に、地面に落ちそうになったフルバーニアンの頭部をキャッチする。
両手でソレを持つと、グフ・カスタムは両腕の力を一気に強くした。
ミシミシとフルバーニアンの頭部が悲鳴をあげる。頭部を無くし、ボロボロになったジム・フルバーニアンがそれを取り返そうとするが、遅かった。

「やめろッ!やめてくれ!!」

シンの叫びは相手の選手に届いているはずだった。
だが、その叫びは、相手の選手にとって意味を成していなかった。

《フンッ!》

バキバキと音を立て、ジム・フルバーニアンの頭部が押しつぶされる。
バラバラと灰色と緑色の破片が、地面に落ちた。

「あ…あ…」

バトルの損傷と同じように、ジム・フルバーニアンのガンプラも損傷が付けられる。
アームにつかまれたジム・フルバーニアンのガンプラは、既に塗装までもが剥がれ、元の薄緑の成形色すら見えるまでの状態だった。
何よりも、四肢それぞれが、もはやすでに原型をとどめていなかった。
何もできない。一方的にこちら側がやられる状況。
バトルでやられるフルバーニアン。アームに破壊されるフルバーニアン。
目の前に広がるその惨状に、シンは唖然としたまま、その場に立ち尽くすしかなかった。

 

 

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「なんだよこれ…?」

目の前で繰り広げられる一方的な戦いに、ヨーイチはそう言うことしかできなかった。
控室にいたヨーイチは、そのままシンのバトルの様子を残った選手と共に観戦していた。
ホ―ルの巨大モニターには、森林の中で戦うジム・フルバーニアンと相手のグフ・カスタムの様子が映し出されている。
何もできず、無残に切り刻まれるジム・フルバーニアンの姿は、残酷だった。
シンのあんな姿は見たことがない。少なくとも、あんな一方的には…。

「アイツ今日は調子いいじゃないか!」
「いや、あのガキが弱すぎるだけだろ」

シンを貶す声、相手選手を褒める声。
その中で戦い方を言及するような声は、聞こえなかった。

「…お前」

観戦していた選手の一人が、ヨーイチに声をかける。
少しだけ血の引いたような表情のまま、ヨーイチはその選手の方を向いた。

「確かアイツのツレだったよな?」
「…そうですけど」
「よくここに参加する気になったよな、なぁ」

選手の問いかけに、うんうんと後ろの選手らがうなずく。

「ぼ、僕たちはただ…!」
「お前はどうかわからないが、あいつはダメだな。壊されておしまいさ」
「…壊され、る」
「? わかんねえのか」

ヨーイチはその時、その選手が言った『壊される』という表現を、不思議に思った。
壊される?何が?何に?

「ま、ここぐらいだだしな、自分のガンプラを”犠牲”にする大会ってのはさ」
「犠牲…?」
「…自らのガンプラを犠牲にし、そして勝つ。あの”サバイヴ”ってのは、そういうシステムだ」

再び新しい単語が選手の口から出てきた。
サバイヴ。生き残るとか、そういう意味の単語だったような覚えがある。
生き残りとはつまり勝負に勝つことなのだろうか。

「ここの客も、俺たちも、ここでしか味わえないここの雰囲気を楽しみに来ている…ま、ほとんど”コレ”目的だけどな」

選手は人差し指と親指で丸を作った。
それが意味するのは、お金。
ヨーイチは、先ほどからの自分の不安が見事に的中してしまったことに、再び血の気が引いたような感覚を覚えた。
ここは非公式のガンプラバトル大会、そして金が扱われる賭博会場。
インターネットでたまに噂になる、非正規賭博ガンプラバトル大会、その一つが、ここというわけだった。

「でもあれは、相手のガンプラを壊すのを楽しんでるようなものじゃないですか!?」

ヨーイチは、思わず相手の選手に言ってしまった。
自らのガンプラを犠牲にしてガンプラバトルをするということは、言ってしまえば相手のガンプラに直接手を下すということにもなる。
それがどういうことかは、ビルダーやファイターなら誰でもわかるはずだった。
ヨーイチの言葉に、あぁ、と怪訝そうな顔が向けられる。

「おかしいですよ、だって…わかってるんでしょ?相手のガンプラが、同じような目にあってるって…!」

無意識に声のボリュームが上がり、控室全体にヨーイチの声が聞こえるようになっていた。
控室のほとんどの選手が、ヨーイチと話しかけた選手の方を見る。

「思わないんですか?ここの人は…!」

控室が、一瞬しんとなる。
しかし直後、選手それぞれが失笑し始めた。
わからなかった。ヨーイチにとって、自分が笑われる理由が。

「どうして…!?」
「…やっぱりなぁ!」

ヨーイチに話しかけていた選手が、ヨーイチの襟首をつかみ寄せた。
その選手の突然の行動に、ヨーイチ怯むしかなかった。

「ここはそういう所なんだよ、自分のガンプラが壊すか、壊されるか。その緊張感、臨場感。それらに身をゆだねて戦うのがここでのスタイルだ。それに合わせれねえやつ、飲み込まれるような奴ははな、ああなる!」

ヨーイチは突き放され、その場で尻もちをついてしまった。抱えていたリイナが落ち、アイテッと電子音の声を上げる。
緊張感、臨場感、壊すか、壊されるか。
その選手に言われたことが、頭の中で反芻される。
ヨーイチ自身は、ガンプラバトルというものにそのようなことを追い求めたことはなかった。
誰かが言った「ガンプラは自由」という言葉を思い出す。
僕が否定することはダメなんだろうか。人のガンプラを壊して楽しむのは、自由の中には入っているだろう。だけど…。

「お前みたいなのも………いや、言うまでもねえか」

そのまま座っていたシンは、そう言われつつも、なんとか力を入れて立ち上がった。
どういうことだ、と口に出そうとした瞬間、ホールの方から歓声が聞こえてきた。
窓からホールの様子を見る。中心部に展開されているホログラム、そしてホールのモニターに映し出されているのは――――。

《BATTLE END!勝者は皆の予想通りかな!?Aサイド…》

もはや原型をとどめず、爆散して砕け散った”灰色の機体”と、それを前に立つグフ・カスタムの姿だった。

《キジマ・レンタロウ選手だァァーッ!!》

実況の声と共に、ホログラムがだんだんと消えていく。
中心部がはっきりとしてくると、Bサイドのスペースでグフ・カスタムを操縦していた選手がガッツポーズをキメる様子が見えた。
よく勝てたな、頑張ったぞ、と観客席からの煽り気味の声がBサイドの選手にかけられる。
その反対側、Aサイドのバトルスペースにいる、その選手の相手。

「シン…!」

その場に立ち尽くし、茫然自失とした表情のモギ・シンは、ただその視点を虚空にへと向けていた。

《Bサイド初出場モギ・シン選手!ジムが壊され、唖然としていますがっ、大丈夫かー!》

嘲笑のような笑い声が観客席からシンに浴びせられる。
ハッとするシンだったが、その様子はただ、虚ろなままだった。
イチローを巨大ハロから抜き取り、ボックスを開け、中を見る。
一瞬シンの動きが止まったが、すぐにボックスの中にある”ソレ”をハロの中に入れ、ホール出口にへと向かいだした。
フラフラと、足元がおぼつかないような、そんな様子だった。

「おいおい、何もあそこまでショックうけるこたぁないだろ」

先程の選手が、シンの様子を見て言う。
瞬間、その言葉を聞いたヨーイチの頭に、カッと何かがこみ上げた。
気付けば、その選手を睨んでいた。

「…アンタらは、ガンプラビルダーなんかじゃない」

そして、ヨーイチは怒りに震えた声を選手に向かって言っていた。
気怠そうに再びヨーイチの方を向いた選手だったが、一瞬、ヨーイチの顔を見て怯んだ。

「人のガンプラを傷付けて喜んで、それで傷付けられているのを見て理解してないで、それでガンプラバトルをやってんだ」
「……だから、それがここだって言ってんだろ」
「わかったよ…わかりました、さ」

床に落ちていたリイナを拾い、ヨーイチは視線をリイナに移し言った。
リイナがこちらを向く。カチカチと目を点灯させ、ヨーイチの様子をうかがうような感じだった。

「でも、こんなのは間違ってる。ガンプラの壊しあいを楽しむなんて、それは間違ってると思う」

ヨーイチのその言葉は、その選手にしか聞こえていなかった。

「僕は…ここの人たちなんかに壊させない、壊されてたまるか」

そうヨーイチが言った瞬間、ガチャリと控室のドアが空いた。
入ってきたのは、先ほど選手たちにバトルの説明をしていた黒服の男だった。

「…どうかしましたか」

黒服が控室の雰囲気を察し、問いかける。
しかし、誰も答えようとはしなかった。
それに構わず、黒服は持っていた名簿リストを取り出し、話し始めた。

「キジマ選手は勝利、このまま試合を続投します。次の方は、ナンバー387―――」

その番号を聞き、ヨーイチの心臓がドキッと跳ね上がった。
ハロを抱える腕の力が、無意識に少しだけ強くなる。

「あなた、ですね」

黒服が示したのは、ヨーイチだった。
リイナに貼られたシールの番号は387。つまり、次はヨーイチの番ということである。

「おいおい早速かよ」

選手がヨーイチに言い、同時に控室から失笑が聞こえ始める。
シンの次は僕。つまり、早々に僕たちをここから処理したいということなのか。
先ほどの選手を一瞥し、ヨーイチは黒服の方に向かった。

「大丈夫ですね」
「…はい」

黒服の問いかけに答え、ヨーイチは黒服につられて部屋を出ようとする。

「まあ精々頑張れよ…どうせ、アイツみたいになるだろうけどな!」

そんな声が、中の方から笑い声に混じって聞こえてくる。
ドアを閉めても笑い声は聞こえてきたが、ヨーイチはなんとかそれを無視しようとした。

「…こちらへ」

黒服に連れられ、薄暗い通路の中を歩いていく。
しばらくしていると、突然リイナの目にパッと光が灯った。
ハロには辺りが暗くなったのを探知すると、自動的に懐中電灯つくようになるシステムがある。
所詮防犯などのためのツールであるため、ヨーイチのような年の人はその機能が働かないようにしてあるのだが、何故かリイナは反応した。
最初の方に黒服に何かいじられた時に、何か不具合が生じたのかもしれない。
いきなりの出来事に、黒服が一瞬振り向く素振りを見せたが、すぐに前を向いた。

「いいよ、リイナ」
《アレ、ゴメン。ヤッパシチョッチオカシイミタイ》
「…シンに直してもらえばいいさ」

―――――シン。

あのの様子を見れば、シンはかなりヤラれていることだろうと思う。
先ほど選手の言葉を借りるなら、”雰囲気に飲み込まれてしまった”せいかもしれない。
しかし、それに加えて、あのグフ・カスタムのファイターはかなり手練れのようにも見えた。
おそらくだが、この大会の全体的なレベルは―――上の方だ。

―――――僕は、やらせない。

ヨーイチがそう思い黒服に連れられて歩いていると、薄暗かった通路の向こうにまばゆい光のようなものが見えた。
それがホールへの入口だということを、近づくうちにヨーイチは察した。
光の先にあるのは、必ずしも自分自身を明るく照らすようなものではない。
その先にある戦いの気を感じ、ヨーイチは覚悟を決めた。

つづく

 

 

 

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