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GPBB外伝 BEAST BATTLERS Chapter.1 第六話:”帰路”

それは初めて感じた感触だった。
自身を包んでいたホログラムが消え、現実に引き戻されて数秒、ヨーイチはその場で少しだけ顔をうつむかせながら立っていた。それだけしかできなかった。
額から嫌な汗がにじみ出ている。少しだけ体が冷えている。

「…」

ヨーイチは顔を上げ、横にあるボックスに触れる。
まだ微かに温度が残っているが、触れないほどではない。
ボックスを開け、中のジム・スナイパーPSTのガンプラを取り出し、それを確認し始めた。
小さい傷はあるが、大きい損傷はない。

「…あっ」

ヨーイチはハッとして、Aサイドの方を見た。
相手選手はどうなった?ガンプラは?
しかし、Aサイドには既に誰もいなかった。

「ヨーイチっ!」

出入り口の方から、シンが駆け寄ってくる。完全に治ったわけではないが、先程のように弱っているような感じじゃなかった。

「…ジムスナは!?」
「うん、大丈夫」
「…そうか」
「ごめん、でも…」

相手は倒せなかった。

「いいんだヨーイチ。ガンプラが壊されてなけりゃあさ、それで、いいんだ…」

段々と声のボリュームが小さくなっていったが、確かにシンはそう言った。
だが彼のハロを抱える腕の力が、少しだけ強くなったように見えた。
バトルには勝ったし、自らのガンプラも大きな破壊はされることはなかった。
しかし、結果的に相手のガンプラに手を加えたことになってしまった。

「僕が…やったのか…」

あの戦略を考えたのは自分だし、グフ・カスタムを殴り飛ばしたのも自分だ。
加えて、突発的とは言え、最後は何もできない相手にとどめを差そうとした。

――――――さっきのヤツのことか。アイツもアイツ、その雰囲気に飲まれてああなった――――――

バトルの終盤、そう言われた途端、ヨーイチの頭に血が上った。
そうしていつの間にか、ビームライフルの銃口をグフ・カスタムにへと向けていた。
だがその瞬間、ヨーイチは目の前の状況を見てハッとした。
グフ・カスタムの周りの散らばる破片。”その機体の腰部だった残骸”。
そしてここは、バトルのダメージがそのまま反映されるシステムの――――――。

―――――――だから撃てなかった。

破壊されたくない。そう言っても、自分でさえも、他の人のガンプラを壊すのは躊躇することだった。
だが今更になって言うことだろうか?中破程度とはいえ、グフ・カスタムを”破壊”してしまったのだ。この手で。
その事実に対して、ヨーイチは身震いした。

「…失礼」

そうしているうちに、ヨーイチとシンの元に黒服の男が話しかけてきた。

「フキヨセ様が勝利なされたので、勝利ボーナスとして5000GPを差し上げます」
「ご、5000GP!?」

5000GP、換算するとそのまま5000円分の価値である。

「受け取れません!そんなっ…」
「しかしここのルールですから」
「そうだ、僕たちはもうバトルはしない、帰してもらっても…!」

ヨーイチの言葉を聞いた直後、黒服の男は大きなため息をついた。

「…モギ選手は敗退されたのでビーストバトラーズからは追放となります。しかし、フキヨセ選手。あなたはこのバトルで勝利しました」
「それが」
「今日は帰ってもらっても構いません。しかし、勝ったものはさらに勝ち進まなければいけない。それがここの―――」
「ルール、ですか」

黒服の言葉を遮り、ヨーイチがそう言った。
「そうです」と黒服が言い、また話し始めた。

「それが守れなければ、そのハロのようなことになりますよ」

そういいながら、黒服の男はシンのハローーーイチローを指示した。
気付いてみると、イチローは目の光もともさず、ずっと黙りこけたままだった。

「イッチがどうなったんだよ」

シンが恐る恐る黒服の男に聞く。

「…もう二度と喋らないでしょうね」
「!?」

黒服のその発言を聞いた直後、シンは抱えていたイチローを見た。
言われてみればやけに静かだ。

「イチロー?どうしたんだよ、おい」

シンが声をかけるが、イチローは目も点灯させず、ただだんまりとだけしていた。
イチローの口を開け一通りの操作を試す。しかし、何をしてもイチローは反応しない。

「イチロー!イッチ!オイ!」
「…ビーストバトラーズ」

黒服がそうつぶやき、かけているサングラスを右手でくいっと上げた。

「ここではガンプラだけではない、あなたらのハロも、犠牲にしなければならないんですよ…」

ヨーイチは、ここに来た時にハロに施された”何か”が選手登録だけではないのがわかった。
意図的にハロを壊す何かを仕込んだ。そして、負けた選手のハロは壊れる。
思わずヨーイチは、巨大ハロからハメたままになっていたリイナをあわてて取り出した。

《ウォ、ヨ、ヨーイチ》

リイナの声に構わず、リイナの口を開け計器類を確認する。
だが、見た限りではリイナにこれといった変化はない。
一瞬安心したヨーイチだったが、気付くと強い目で黒服の方を見ていた。
シンがその様子を見る。

「…ガンプラはまた作りなおせばいいかもしれない」
「…」
「でもハロは…ハロはそのハロだけなんだ。たった一人の相棒なんだ。失えばそれまでで、親しんでいた”ハロ”は戻ってこない…なのに――――」
「あーっとな」

ヨーイチが話す途中、黒服の男が突然口調を変えて話し始めた。
ごそごそと胸ポケットを探り、周囲に気付かれないよう”ソレ”を取り出し、ヨーイチの方に向けた。

「!?」
「お前らをここにアゲた上の連中はよくわからないが」

カチリと親指で撃鉄を引き、黒服の男は上着で隠すようにしつつ、拳銃をヨーイチの方にへと向けた
全身の血が、一瞬引いたような感覚に陥る。

「てめえみたいなガキはここには来るべきじゃねえ、な?」
「ッ…!」
「だが入っちまったもんはしょうがねえ。ここではここのルール、しきたりに付き合ってもらう。それがこの世界だ」

ヨーイチはその拳銃を見たまま、固まっていた。

「…ここのことを話せば、お前らも無事では済まない」

拳銃に注意をかけながらも、ヨーイチはその言葉を聞いた。
情報が極端に少ないのはそういうことか。どうりで見つからないわけで…。

「お前らのそのタマも無事で、ガンプラも無事で、さらに自分の身もそうしたいなら」

そう言いながら、黒服は拳銃を胸ポケットにしまった。

「……勝ち続けろ」

黒服がそう言った瞬間、ヨーイチはハッとして、止まっていた体を動かそうとした。
冷汗が出てくる。ここは来てはいけない場所だった。ヨーイチは確信した。

「…ハロには、様々なプログラムと共にここのルールについての資料もインストールさせておきました」

表情一つ変えず、黒服は口調を元に戻し話し始めた。
勝手にとは言わないが、こいつらはハロをかなりいじったのかもしれない。
少しだけ青ざめた顔をしたヨーイチとシンをよそに、黒服は微笑を浮かべ言った。

「歓迎しましょう…ようこそ、ビーストバトラーズへ」

初めて見たその微笑は、二人にとっては不気味なものに映った。
観客たちのガヤガヤとした声を聞きながら、ヨーイチはハロを抱える腕の力を無意識に強くした。

 

 

Chapter.1 吹き寄せる風
第六話:”事後”

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その日、例年より遅い梅雨入りが宣言された三楠ノ森市は、珍しく昼間から雲一つないかんかん照りの快晴だった。
昼間から続く初夏の日照りは、傾きつつあってもなおその陽射しを地上に落としている。
湿気のこもった蒸し暑さがまとわりつくこの時期は、その感覚からの不快感と同時に、夏という季節が近づくほんのちょっとの期待感を人々に与えていた。

「…」

電車から降りた人々が、ぞろぞろと改札口を通っていく。夕方の時間帯はいつもこんな感じだ。今日あった色々なことを色々と考えながら、みんな家路につく。普通のことだ。

「…」

そんな人ごみに混じり、ヨーイチとシンは駅から出た。
駅の出入り口からはミクス高校がすぐ見える。毎朝この駅はミクス高校の制服に身を包んだ学生らがたくさんいる。これも普通のことだ。

「…」

駅を出て数分歩いていると、シンが立ち止まった。
ヨーイチも同じく歩きをやめる。
あそこを出て、目的の模型店にも行かずそのまま帰路についてから何も話してない。ヨーイチはうつむくシンを見て思った。

――――あれ、おもちゃの拳銃だった。

電車に揺られている途中、シンはそう言った。しかし、それだけだった。
シンが冗談を決めるのは時々やることだ。普通といえば普通のことだ。
だが、周りの普通のことがなんとなく有り難いような、そんな感覚に陥りそうになる。

「…そう思いたいだけなのかもな」

え?とヨーイチが言う。

「でもさあ!通報したらなんとかしてくれるかも!ガンプラバトル不正取締委員会、なんなら警察にでもさ…!」
「いや、それはダメだ」

この駅の近くには警察署もある。今すぐ駆け込めば、何かしら対応してくれるかもしれない。
だが、ヨーイチはその気にはなれなかった。

「…どうして」
「確かに警察に言えば何かしてくれるかもしれない。相手は賭博大会だし…だけど」
「そういや、あの黒服…!」
「うん、あそこの話を言えば、無事では済まさないって」

あの場所、あの人数、あの設備。元々あったものを使っているとしても、あの整いようはちょっとやそっとで用意できるものじゃない。
特にあの”サバイブ”と呼ばれていたアレは、大規模なのガンプラバトル大会でも使われているようなのと何か変わりないものだ。
何か大きなものが、あの大会の後ろにはある。あの大会が氷山の一角としても、情報の漏れた場所はすぐにばれるかもしれない。そういう団体である可能性だってある。

「だから不用意に話したらどうなるか…ってね」
「ッ…」

ヨーイチの言葉を聞いて、一瞬シンが黙り込む。

「ヨーイチ…」
「…」
「すまねえ、俺があんな動画で興味を持ったから、俺がそう言わなければこんなことには…」
「シン…」

――――ハロには、様々なプログラムと共にここのルールについての資料もインストールさせておきました。

電車に乗っている途中、ヨーイチはリイナの中身を確認していた。
黒服の言った通り、リイナにはいくつかいじられているところがあった。
その中でも一番大きいのが、リイナの記憶媒体に仕組まれた”リミッター”だった。
ガンプラバトルのために開発されたハロには、持ち主のデータやガンプラの機体情報などを登録する機能がついている。
それらを保存するため、ハロの特徴や性格を決める部分とは別に、PCのものと同等かそれ以上の性能を持つ記憶媒体が埋め込まれていた。
不正行為防止のためにその記憶媒体は簡単にはいじれないようになっているが、あの黒服は簡単にそれを破り、”リミッター”を登録した。
リミッターについてはプログラムと同時に入れられた資料にそのことが書いてあった。

『情報漏えいを防ぐため、そしてそれなりの規律を守っていただくため、出場者のハロにはある条件に達した際に発動するリミッターがインストールされています。バトルに負けた時、ビーストバトラーズに一定期間参加しなかった時、そしてこのリミッターを外そうとした時――――』

ハロの回路がショートを起こし、記憶媒体やメモリごとすべて壊れる。
考えただけでも恐ろしかった。今こうして普段の場所に戻ってきても、ビーストバトラーズという大会は自分たちを逃がさない。あの場所の、あの雰囲気に身を投じるよう自分たちを縛り上げる。飢えた野獣が眼光を飛ばし、そいつらが見守る場所―――。

「…僕は」

だが、ヨーイチの中では微かに”何か”を決心したような、そういう想いになっていた。
よくわからない。だけど逃げてはいけない、そんな感じの、言うなれば…。

「僕は、あそこにいる人らが許せない。たとえガンプラの楽しみ方が自由だとしても、ガンプラを壊しあって楽しむなんてそれは異常だ。いけないことだって僕は思う」
「ヨーイチ…」
「それにハロだって…」

ヨーイチは肩に下げている鞄の中のリイナを見た。ハロは自分で自由自在に動くことが出来るが、ヨーイチらのように移動の際には鞄にしまう人もいる。
シンのイチローはあいつらに壊されたのだ。言い方を変えればそうである。

「今は誰にも言わないでいい。僕は僕で立ち向かう。リイナとガンプラを守るために」

例え一人でも僕は戦う。その先に何があっても、あそこを脱出するために。
ヨーイチは、そう強く言った。

「そういう…覚悟、ってやつなのかな」

ヨーイチがシンの方を見る。

「…ヘッ、ヘヘヘ」

しばらくすると、シンは軽く笑い始めた。
ヨーイチがきょとんとなる。

「すまん、なんかおかしくなっちゃって」
「えっ…なにそれは」
「そういや…『仇はとる』…あの時ちゃんと聞こえてた。仇なんてかっこつけやがって」
「あ、あれは…!」
「…イチローはなんとか直せないかやってみる。俺だってパソコン部さ」

シンは自らの鞄を一瞥し言った。
中には少しだけボロボロのハロの姿が見える。

「俺もサポートする。なんならそのリミッターの外し方だって調べてやる」
「シン」
「ヨーイチには負けそうだけど、ガンプラのことも協力する……力になれるかはわからないけどな」
「…ありがとう」

…そうだ、僕は一人じゃない。
一人では心細い暗い道でも、誰かもう一人いることで怖くなくなる。心強くなる。
僕には、シンもいる。

「俺が巻き込んだのに言うのもあれだけど…」
「?」
「…勝とうぜ、ヨーイチ」

シンが真剣な表情で言う。
一瞬言葉につまったヨーイチだったが、少しだけ笑みを浮かべ言った。

「…うん!」

それを聞いたシンは、微笑を浮かべながら握りこぶしを差し出した。
ヨーイチも同じく握りこぶしを上げ、こつんとぶつけた。

「…今日はここまでかな」
「あぁ…疲れたしな」
「また話したいこともあるけど、今日はね」
「んじゃ、またな」
「うん…」

お互い軽く挨拶をし、その場を後にする。
なんとなくシンのことが心配だったが、大丈夫だと思う。
シンの後ろ姿を見てから、ヨーイチは自宅の方へ歩き出した。

「…勝つ、か」

あの大会――――ビーストバトラーズでの勝利。それは相手のガンプラを壊すこと。相手のハロを壊すこと。
ヨーイチは控室での光景を思い出した。動かないボロボロのハロたちは、繰り返し壊され続けた結果かもしれない。
あそこの人たちは、ガンプラバトルに刺激を求めてあそこに向かう。会場の雰囲気を思い出すと、少しだけ寒気のようなものを感じる。
だが、それらに飲み込まれてはいけない。

―――――あの人のガンプラは。

ヨーイチは、ふと相手選手のあのグフ・カスタムのことを思った。
卑怯な言い方かもしれないが、先ほどのバトルはあのガンプラを”完全に破壊”せずに終わった。
完全に破壊しなくともバトルは終わるし決着はつく。何もボロボロにすることはない。
…でも、そんな甘い考えはあの空気の中では通用しないかもしれない。
それに気を抜けばこちらがやられる。そう、あの場所では戦わなければ――――。

「…生き残れない」

ヨーイチはそうつぶやき、照らされながら自らの家を目指す。
すうっと風が吹く。その風からは、夏には不似合いな冷たさをヨーイチは感じた。

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Chapter.1 吹き寄せる風 終

 

つづく

 

 

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