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GPBB外伝 BEAST BATTLEARS Chapter.2 第八話:”影”落ちて

ミクス高校の玄関ホールは、夏は涼しく冬は暖かいと年中通して過ごしやすいようになっている。
広さもあり、昼休みなどはここで昼食を食べるという人も少なくはなかった。
放課後、外は曇りのままで夕日は照っていない。
玄関ホールの中心で、対峙している3人の男子生徒と1人の女子生徒を囲むように人だかりができていた。
4人はそれぞれ、ハロを片手に抱えている。

「…」

流れで言っちゃったけど、戦うならもっと目立たないところにすればよかった。
自らの周りに集まるギャラリーを横目に、アリカワ・テイコは思った。
相手の3人組のハロはそれぞれ灰色。さらにタトゥーのようなデカールが所々に貼り付けてある。

《テイコー、大丈夫ナノン?》

テイコの持つ薄紫色のハロ―――ハヤタカが話しかけてくる。
ハヤタカの耳の部分には、罰点印のばんそうこうのデカールが貼られている。テイコが自分で貼り付けたものだ。

《相手ハ3人、コッチハ一人。シカモ……》
「チーム戦。ま、チームというよりは3対1の一方的って感じ」

ハヤタカの言葉の続きを、テイコは言った。
元はといえば自分の独り言がキッカケである。だが、あそこでエイナが通りかかったのは偶然だし、よもやバトルで決着を付けようなんて…いや、でもアイツならやりかねないか。

「ヘヘヘ…ちゃんと来たな」

3人のうち、一番背が高く太り気味の金髪の男子生徒がにたりと笑う。他の二人は太ってなかったり背が高くなかったり、でも似たような見た目だ。

「勝負は3対1、まさかチーム戦をしてほしいなんて言うとは思わなかったが……どこまで舐めてやがんだか」
「それはバトルでわかることじゃない」
「…それもそうだな」

ムッとした表情を見せたのも一瞬、3人はハロを片手で一斉に上に掲げた。
ガンプラバトルの準備OKの合図。常識中の常識である。

「…行くよ、ハヤタカ」
《ヨッシャ!…ッテ、暴走ハスルナヨ?》

ハヤタカが念を押すようにテイコに言った。
だがテイコはそれに返答せず、無言のままハヤタカを上に掲げた。

――――――――どうなるかな。

あいつらじゃ役不足。
そんな独り言が出たのは、あいつらが3人でのデスマッチをしているのを見ていたからだった。
戦い方が甘っちょろい。オラついてる割にはあんまり強くなさそう。
そして何よりも…自分が求めている相手ではない。
しばらくして、片手に乗っていたハロが浮かび上がり、パカりとハロの口が開かれ、そこからホログラムが形成されていった。
テイコらの周りが、だんだんホログラムに包まれていく。
手元に操縦桿が形成される中、テイコはポケットからあるものを取り出した。
それは、オレンジ色のカチューシャだった。

「……」

ハヤタカには暴走するなよなんて言われたけど、これがないとバトルは面白くない。
これをすると、目の前がすっきりするし、頭がさえわたる。
長い前髪をカチューシャでまとめ、テイコは操縦桿を握る。
一度目を閉じ、湧き上がる感情と興奮を感じながら、テイコはバトル開始の合図を知らせる電子音を聞いた。

《BATTLE START!!》

 

 

 

Chapter.2 それがアリかはわからない
第八話:”影”落ちて

 

 

「くっそ、こんな時間かかるなんて思わなかった…!」
「そもそもなんで日直なんて忘れるの!」
「すまん!…なんか謝ってばっかりな気がする」

放課後の誰もいない廊下を、ヨーイチとシンは走っていた。
とはいえ、放課後の掃除の時間が終わってもう30分は立っている。ここまで時間がかかってしまったのは、シンが今日の日直当番だったこと、そしてその放課後にする日直の仕事を忘れていたやるのが遅くなったからだった。
そして、その最後の仕事を終え、二人はホールにへと急いでいた。

「アリカワさんのバトルまだやってるかな…!?」
「わかんねえ、けどなんか早めに終わってそうな気もするんだよな…!」
「なんで?」
「あの3人にすぐに倒されたか、それとも瞬殺したか…!」

ヨーイチとシンはテイコについては知らないので、そこの辺りはあまり予想はできなかった。
バトルリプレイに文句は出すが、本人の実力はそれなりか下の方。そういうのはガンプラバトル含め、どこの界隈でも時々ある。
しかし、あの一人でやるという提案が強がりでもなんでもなかったとしたら…。

「ついたぞ!」

玄関ホールの入り口をくぐると、その場でヨーイチたちはぜえぜえと息を切らした。
中心に人だかりが出来ているのが見える。まだバトルは終わっていないのか?

「あー、す、すいません!ちょっと…!」

人だかりに近づき、シンはそういいながら人をかきわけ、人だかりの中心にへと向かっていく。ヨーイチも同じくその後についていった。

「…?」

ヨーイチは、周りの生徒らの様子に違和感を持った。
観戦しているであろうギャラリーは、盛り上がるとかそういう雰囲気ではなく、むしろ”引いている”ようなそんな感じだった。

「おい、ヨーイチ」

シンに呼ばれ、ヨーイチは中心にいるその人らを見た。

「!?」

目の前に広がる状況を見て、ヨーイチは驚愕した。
中心にいたのは、あの不良組っぽい3人組、そしてあのアリカワ・テイコだった。
バトルは既に終わっているらしいが、3人組の様子が何か変だった。

「あが、あががが、あが…」
「ヒェー」
「ごぎい…」

口を開け、3人組は腰を抜かし呆然としている。
そして、じとっとした目線で3人組を見るテイコの姿があった。
すると、唖然とする人らのなかから、エイナがテイコに歩み寄った。

「ア、アリカワさん…?」

エイナは恐る恐るテイコに声をかける。
皆の様子がおかしい。何か、アリカワさんを恐れているような。
しかし、テイコは何ともないような顔でエイナの方を向いた。

「ね、勝ったよ」
「えぇと、その、さっきのは…」
「…まあ、そういうこと」

そう言いながら、テイコは足元の紫色のハロとカバンを持ち、その場を去ろうとした。
テイコが向かう先にいたギャラリーの生徒たちが、自ら道を開けていく。
だが、テイコはそれも気にせず、そのまま玄関にへと向かった。

「どうなってんだ…?」
「…あのっ」

その状況に戸惑いながらも、ヨーイチは近くにいたギャラリーの生徒にへと話しかけた。

「バトル、どっちがどうだったんですか?」
「え?えぇ、えっと……あの女の子が勝ったんだけど…」
「やっぱりアリカワさんが勝ったんだな」
「でも…」

生徒は話し続ける。

「でも一方的だったんだ」
「一方的?」
「3人相手じゃそりゃ不利だろうと…」
「違うんだ」

その生徒の言葉に、遮られたシンがえ?と声を出す。

「一方的に戦っていたのは…あの女の子の方だ」
「!?」

ヨーイチとシンは、一瞬耳を疑った。
3人相手に一方的に戦った?あの人が?

「…うぅ、思い出しただけで寒気がしてきた」
「ど、どんなバトルだったんで――――」
「おややややっ??」

生徒に話している途中、突然ヨーイチの背後から声がかけられた。
この声は聞き覚えがある。というかいつも聞いている。うんざりするほど。
そう思いながら。ヨーイチは振り向きその声の主を見た。

「どうりでねえ!ヨーイチじゃないかい」
「…兄さん」

パンパンとヨーイチの肩を軽くたたき、兄―――フヨキヨセ・シンジはよくわからないヘラヘラ顔をしていた。

「お前も見てたの?さっきのバトル」
「いや、僕はここに来たばっかり」
「あらそうなの。まあ、さっきのバトルすごかったからさぁ…あっ、そうだ!俺のハロにもリプレイ入れておいたから、後で見とけよ見とけよ~?」

相変わらずへんてこな言葉を使う。僕にはよくわからない。
シンも、シンジの口調に苦笑いしていた。
ヨーイチよりも一つ年上のシンジは、一つ上の二年生であった。
同じ学校であれば時々会うのだが、おそらく学校でもいつもこんな感じらしい。
お調子者というか、抜けているのか。

「じ、じゃあ俺もう…」
「え?あっ、はい…」

生徒がそうヨーイチに言い、その場から去っていった。
気が付けば、玄関ホールのギャラリーは既に少なくなっている。

「あら」
「にゃぴん」

そうしていると、エイナがこちらに気付いた。

「部長ゥー」
「あなたも見てたのですわね?フキヨセ君」
「ん、そうですね」
「…まさか、あんな娘だったなんて」
「いやまあ、ガンプラって自由っすよ?戦闘スタイルも人それぞれじゃんアゼルバイジャン?」
「ハァ、まあそうですけど…」

ため息混じりにエイナはそう言った。

「だけど、今のバトルはぜひとも分析したいですわ」
「おっ、いいゾー?こいつにぃ、ちゃんと入ってるぜ?」

シンジがこつんこつんと自らのハロを指さす。

「グッジョブですわ!言いにくいですけど、あの迫力でリプレイを撮影するのを忘れてましたの…」
「んまあ、その気持ちはわかりますわかります」
「…その口調、なんとかなりませんの?」
「そう簡単には治らないナスよ」
「あっそ」

エイナの呆れ半分のを言葉を聞き、シンジはウィヒヒと謎の照れを見せた。
こう見えても、シンジはミクス高校ガンプラ部の一軍メンバーである。
部長選抜のガンプラバトルでも、終盤まで勝ち残っていた。エイナにはぼろ負けしたらしいが…。
しかしガンプラは少なくとも自分より上だ。バトルも、作品も。
そこの辺りは、数少ない兄として尊敬できる事柄だった。

「やっぱ、ヨーイチの兄ちゃんってなんか独特だな…」
「まあね…」
「あっ、そういやさ」

すると、シンジは何かを思い出したかのように、ヨーイチに再び話しかけた。

「お前この後暇か?」
「んまあ、あと帰るだけだけど」
「それじゃあさあ、帰りに”キイセン”で買ってきてほしいもんがあるんだけど」
「ええっ!兄さんが買えばいいじゃん!」
「今日はガンプラ部もあるし、それにさ、ちょっと用事もあるし…頼むよ~」

シンジが両手を合わせ、ヨーイチに頼み込む。
「キイセン」というのは、ミクス高校の近くにある模型店のことだ。
ガンプラに限らず、模型の個人店は不況の波に煽られ、多くが店をたたむ事態に追い込まれていた。
その中でも、ガンプラバトルの流行を活用し、生き残ってきた模型店が存在した。
キイセンはその一つで、ツール類の充実、パーツの別売り、制作ブースの貸出などのサービスを構え、近所の量販店に引けを取らない規模の展開を見せている。

「…わかったよ」
「お!ナイスゥー!じゃあコレ買ってきてほしいヤツのメモ帳と金!はいヨロシクゥ!」

シンジがヨーイチに購入物を書いたメモ帳を渡す。プラ板、塗料、パーツ。色々と書いてある。

「じゃあ俺、色々やって帰るから」
「うん」
「ではお二方、ごきげんよう…」

今日二回目のその挨拶を言い、シンジとエイナはその場を後にした。

「はぁ、時々ああなんだよ、人使い荒いというかさ」
「へへ、まあキイセンなら俺も行こうかなって思ってたし、丁度いいぜ」
「僕もパーツが欲しかったから…じゃあ行こっか」
「おう」

そんな会話をしながら、ヨーイチとシンジは玄関の方にへと向かった。
出入り口から見える空は、ただ灰色が広がっているだけだった。

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思えば多人数を一気に相手にするっていうのはさっきのが初めてだったかもしれない。
いつかはやってみたいと思っていたけれど、滅多にそういう機会はなかった。しかし、そんな初めての経験はテイコにとってはあまりいいものとは言えなかった。

「……くそ」

気付かぬうちに、テイコの口から不満が漏れた。
自分の中にある”ずれ”。それは戻そうとしても戻すことができない。
好きだったガンプラバトルも、いつの間にかそれを治すための手段としか考えていないような、そんな気がした。
テイコにとって、それは少し悲しいことのように感じた。
でも、それを治さないと前のようには戻れない。

「……」

そんな気持ちになりながら、テイコはある店の前に立ち止まった。
看板に書かれている潜水艦のキャラクター。この辺りではキイセンと略されて呼ばれる模型店、それがこの『黄色い潜水艦』である。
テイコはこっそり窓を除き、店内の様子を確認する。
レジに一人、店内で作業をしてるのが一人。
その中に、あの人の姿はなかった。

「よし」

テイコがドアを開け、キイセンの中にへと入る。
ドアに付けられた鈴がなると同時に、「らっしゃっせー」と気の抜けたようなアルバイトの挨拶が聞こえた。
クラシックロックが流れる店内には、プラモや塗料がずらりと並べてあり、一目で品揃えの良さがわかる。
テイコはひょいひょいと差し足で、店の奥にある一室にへと向かう。
別に”あの人”がいてもいなくてもこんなこっそり行く必要はない。店に入ること自体は何も言われていない。
問題は、その一室をテイコが使うということだった。

「すいー…」

店の奥の一室、『BATTLE SPACE』と書かれたそのドアを開ける。
その向こうには、大きなマス目のような模様がある以外真っ白な正方形の広めの部屋が広がっていた。
ガンプラバトルが流行して以来、このようなバトルスペースを設ける模型店が多くなった。
実はというとバトルスペース以外でのガンプラバトルは、ホログラム展開や戦闘の電子音などによる近隣への迷惑といった理由で、ガンプラバトル公式からは推奨されていない。
だが”推奨されていない”だけで、言ってしまえば”禁止されている”わけではなく、広めの場所があればそこでバトルをする人がいる、というのが現状だった。
実際手軽にこういったバトルができるのも、ガンプラバトル流行の要因であるため、公式もまたこれを本格的に取り締まることはしていなかった。
いわゆる大人の事情、いわゆる暗黙の了解である。

「よっしゃ」

テイコは部屋の隅にある名簿に名前を書き、荷物もそこに置いた。
手提げバッグの中からハヤタカを取り出すと、テイコはそれを抱え部屋の中心付近に立った。
ハヤタカを片手に乗せ、上に掲げる。手を離すと、ハヤタカは中に浮いたままパカッと口を開け、ホログラムを展開し始めた。
部屋中が粒子のようなCGに満ちていく。手元にモニターや操縦桿が形成されると、テイコはすぐにCPU戦の設定をした。
ハロにはガンプラバトルのリプレイを記録する機能もついている。
記録したリプレイは、他のメディアに移し替えて再生することも可能だが、ハロそのままの場合ホログラム展開によってバトルを立体的に完全再現したものを見ることができる。
さらにそのリプレイによって蓄積された戦闘データを元に、CPUの模擬戦闘をすることもできる。
君だけでなく、ハロも成長する。なんて、どこかのキャッチコピーであったような気がする。

「強さは…まあいつも通り…うん…」

テイコはCPUの強さをレベル9とした。最高レベルは10、一歩手前である。
かなり強い設定だが、これくらいでないと満足はできない。
ポケットのカチューシャを取り出し、頭にかける。
感情が高ぶるのを感じながら、テイコはキッと目を開き、叫ぼうとした。

「バトルッ、スタァァッッーーーー」

その直後だった。
入り口の横にある観戦用の広い窓に映る人物と目が合い、テイコは固まった。
腕を組みニコニコとこちらを見る中年の男。黄色い潜水艦の店長だ。

「ァァァー…えっと…あの…」

青筋を立てながら、こちらを見る店長。
うまく言葉が出ないテイコの頭から、ずるりとカチューシャが落ちる。
ハサリと長い前髪が顔にかかり、店長の様子がよく見えなくなった。
だが、そのガチャリとドアを開ける音を、テイコは確かに聞いていた。

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「らっしゃっせー」

ドアを開けるといつも聞こえてくるその気の抜けた出迎えは、2ヶ月ぐらい前から始まったものだった。
それはアルバイトの人のものだとわかっているが、ここの店長はこの趣味には似つかわしくないような威勢のいい挨拶で出迎えてくれるし、個人的にはそっちの方がいいとヨーイチは思っていた。
アルバイトが来てから店長が店にいることは少なくなった。別のことで忙しいのかもしれないが、そこまではわからない。

「んー、今日はなんか新しいパーツあるか?」
「どうだろう…」

壁面にかけられた数多くの小分け袋。その中には、頭部、胸部、バックパックなどに分けられたガンプラのばら売りパーツが入っている。
これらはGPだけでしか買えない品物の一つで、ミクス高校周辺地域ではこの店だけがやっているサービスである。
割と割高だが、ついつい買ってしまう。

「そう言えば、ヨーイチ何を買おうとしてたんだ?」
「うん、ビーストバトラーズはどんな相手が来るかわからないし、それなら今使ってるスナⅡの武器のバリエーションを増やそうと思って」
「いいじゃん」
「それで最初に作ろうと思ってたのが…あった!」

商品を見渡していたヨーイチが、小分け袋の一つを取った。
『HGUC ヘイズル2号機 トライブースター』と書かれたそれには、巨大なブースターのパーツが入っている。

「ブースターか」
「今のバックパックは武装と機動性の強化。元々僕のスナⅡの性能は平均的すぎるから、バックパックで何処かの性能を尖らせようと思うんだ」
「じゃあ今度はトライブースターで機動性強化、ってことか?」
「そういうこと」

ヨーイチの機体、ジム・スナイパーPSTは性能こそ平均的―――とはいえ改造はしてあるため高性能―――――ではあるものの、武装に関しては射撃武装が多い。
トライブースターのように機動力を上げるバックパックを付ければ、ヒットアンドアウェイ的な攻撃もできるようになる。
多くの使い道があるのがこの機体の特徴であり、そして難しいところだった。

「さて、あとは兄さんのかな。プラ板とパーツとそれと―――――――」
「出ていきやがれーッッ!!」

メモ帳を見ながら品物を確認していた途中、奥の方からものすごい怒鳴り声が聞こえ、ヨーイチとシンはぎょっと驚いた。

「なっ、なんだ……?」

シンがビビり気味に奥の方を覗き、ヨーイチも同じく見る。
その怒鳴り声は、店の奥にあるガンプラバトル専用のバトルスペースからの聞こえたものらしかった。
瞬間、ドアがバタンと急に開かれ、転がるように誰か中から出てきた。

「ぎゃわっ!」

悲鳴とも鳴き声ともつかない奇妙な声を出し、その誰かは尻餅をついてしまった。
よく見るとその人はミクス高校の制服を着ている。しかも女子のものだ。
さらに部屋からは、コロコロと薄紫色のハロが転がりながら出てきたが、その人にぶつかり止まった。
ハロは目に罰点印のマークのホログラムを出している。

「あれ?」

ヨーイチはその人の姿を見て、思わず声を出した。
女でも長いと思いそうな後ろ髪、左側だけヘアピンで纏め、あとは顔の半分を覆うように伸びる前髪。
あの感じは間違いない。今日会ったばっかりだけれども、あんな髪型なのは他に見たことはない。

「ア、アリカワさん?」

その人――――アリカワ・テイコは、ついでに放り投げられた荷物と薄紫色のハロを持ち立ち上がった。
ヨーイチの呼びかけに、テイコがこちらを向く。
「あっ」とテイコが声を出した直後、バトルスペースの部屋の中からもう一人出てきた。
先程の怒鳴り声の主であろう、黄色い潜水艦の店長だった。

「次使ったら今度は出禁だからな!わかったか!」
「う、あ、は、はい」

しどろもどろに返事し、荷物を抱えたままテイコは小走りでそのまま店を出ていってしまった。
目の前の状況を、ヨーイチとシンはうまく飲み込めなかった。

「店長?一体どうしたんです…」
「ん?あぁな、あの嬢ちゃんちょっとバトルスペースを使用禁止にしてたんだがな、こっそり使ってやがったんだ」
「使用禁止って…!?」

バトルスペースを使用禁止。その言葉にヨーイチは驚いた。
今のご時世、ゲームセンターで動物的なテンションでゲームをする人さえ少なくなったというのに、何をしたら使用禁止なんかになるんだろう。

「いやなぁ、確かにウチは自由にこのバトルスペースを使ってもいいとは言っている。だがな、マナーの悪いヤツには店側にとっても少し迷惑だし、そこんところは困るんだ」
「アリカワさんが迷惑なことをしたってことですか?」
「…少し前、あの嬢ちゃんがガンプラバトルをしている学生の集まりに勝負を挑んだことがあったんだ。知らない人同士がその場でバトルだ交流だってのはウチじゃそんなに珍しくねえ。挑んだっつっても誘ってきたのは学生さんらだったしな。だけどあの嬢ちゃんはその学生さんらにちょっとした挑発をかけたらしくてなぁ、そのまま1対5の勝ち抜き戦が始まった」
「結果はどうだったんですか?」

シンの問いかけに、店長が少しうーんと唸ったが、すぐに話し始めた。

「俺もいくらかバトルは見てきたが、ああいうのは初めてだった。正直言って恐ろしかったな」
「お、恐ろしい?」
「嬢ちゃんは一見おとなしそうな見た目なんだが、バトルになると人が変わったかのような感じになっちまう。戦い方も言ってしまえば”残酷”なものでな、相手の機体を切り刻むような感じで倒していくんだ」
「それで」
「5戦とも、嬢ちゃんの圧勝さ…それに、全員嬢ちゃんのソレに圧倒されて腰を抜かしてた」

ヨーイチとシンは、信じられないような表情で店長の話を聞いていた。
とはいえ、先程の玄関ホールでの様子もそんな感じだった。
腰を抜かしたあの不良っぽい3人組、引いているギャラリー、唯一、テイコだけは冷めたような表情をしていたが。

「以来、嬢ちゃんはここに来るたびそんな戦いをするようになった。そのうち苦情が来てな、”あんなヤツと戦いたくない!”って。俺も何回か言ってはみたが、彼女はそれを止めることはなかった」
「だから、使用禁止と…」
「…俺はそういうのには詳しくないけどよ、嬢ちゃんにも何か事情があるのかもしれねえ。昔はああじゃなかったしな…だが、あの戦い方は…」

店長は、次の言葉を言わなかった。

「まっ、それはさておきな!今日は何買いに来たんだ?」
「え?あ、ああ、そう…」

沈んでいた表情から一点、いつもの気前のいい感じで店長は話しかけてきた。
こういう切り替えができるのも、この店主の良い所だ。
だが、ヨーイチとシンはテイコがどんなガンプラビルダーなのか、余計気になるようになっていた。

――――――兄さんのリプレイ、見ないとな。

店長と話しながら、ヨーイチはそう思っていた。
そして彼は、アリカワ・テイコのその姿を、身を持って知ることになる。

 

つづく

 

 

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